パンドラの匣
映画「パンドラの匣」(2009年/日本)を見ました。原作は、太宰治著『パンドラの匣』(1946年)。『木村庄助日誌』を定本として書かれていて、映画でも「原資料」とクレジットされています。監督・脚本・編集は冨永昌敬。音楽監督は菊地成孔(なるよし)。
結核患者の療養所「久坂健康道場」を舞台に、患者と看護婦の人間関係を描いています。「久坂健康道場」のモデルは、生駒山麓に実在した「孔舎衙(くさか)健康道場」とのこと。病室のシーンが多いですが、病的な感じはほとんどしません。ちなみに、「パンドラの匣」とは、ギリシャ神話に出てくる物語で、映画でも触れられます。
菊地成孔の音楽が個性的。ジャズミュージシャンなので音使いが現代的。不協和音など映画の時代背景とあいませんが、起伏が少ないストーリーなので、刺激的でいいアクセントになっています。「あ、と、で、ね」というマア坊(仲里依紗)のセリフに音をつけたり、布団部屋での電灯のON/OFFの切り替えで音楽をつけるなど音楽の扱い方がユニーク。さらに、マア坊の声をボイスチェンジャーで多重にすることで、ひばりに攻め寄る感じがよく出ています。テーマ曲「パンドラの匣 愛のテーマ」を自ら歌います。また、劇中歌「オルレアンの少女」は、菊地が作曲し冨永が作詞しています。
セリフはすべてアフレコ。口の動きと合っていないところがいくつかありました。編集もいきなりぶった切ることが多い。撮影は、廃校(宮城県の南三陸町立清水小学校)で行なわれたようで、雰囲気がいい。
俳優では、ひばり役の染谷将太はオーディションで選ばれたとのこと。まだ17歳で、かわいい。看護婦長竹さん役の川上未映子は芥川賞作家。今作が映画初出演とは思えないほど存在感ある演技です。和服もよく似合う。マア坊役の仲里依紗もかわいい。仲里ではなく仲が姓とのこと。つくし役の窪塚洋介はなかなか男前。越後獅子役の小田豊、大学生固パン役のふかわりょう、場長役のミッキー・カーチスも適役。
原作は、上述したように、太宰治の熱心な読者であった木村庄助が孔舎衙健康道場で亡くなり、遺族によって太宰に届けられた『木村庄助日誌』をベースに書かれています。大きな特徴は、全文がひばりが書いた手紙の形式で書かれていること。冒頭の「作者の言葉」でも太宰は前例が少ないと書いています。
映画ではひばりがつくしに宛てた手紙でしたが、原作では詩人の「君」(氏名不詳)に宛てて書かれています。昭和28年8月25日「幕ひらく」から始まり、12月9日「竹さん」まで、各回ともかなり長文の手紙です。「君」からの返信は掲載されていませんが、一部は引用されています。原作に書かれている戦争責任とか自由主義とかの難解な話は、映画ではカット。同じ太宰治原作の「ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜」とほぼ同じ姿勢といえるでしょう。
「やっとるか」「やっとるぞ」「がんばれよ」「ようしきた」という道場での挨拶や、竹さんの「いやらしい」、マア坊の「意地わる」は、映画オリジナルではなく原作にも書かれています。
竹さんが結婚する相手が映画と原作では異なります。映画では退院したつくしと結婚しましたが、原作では場長と結婚します。つくしはすでに結婚しているという設定です。
また、マア坊からのひばりへのプレゼントは、原作ではシガレットケースですが、映画では黒の帽子になっています。
|