『ガンダム00』の物語のキーパーソンにPMC(民間軍事会社)の傭兵部隊長アリー・アル・サーシェスがいます。
彼は主人公刹那・F・セイエイの母国クルジス共和国の内戦にも傭兵として参加し、そこで反政府ゲリラ組織KPSAを組織します。刹那はほかならぬ彼に誘拐され、洗脳され、戦闘訓練を施された少年兵です。刹那とサーシェスの対決の行く末がこの物語の大きな見所の一つです。
サーシェスの雇い主である民間軍事会社は、現在の世界各地の紛争においても非常に大きな役割を担っています。その名のとおり彼らは傭兵の派遣や軍需物資の輸送などを請け負う民間の営利企業であり、近年の混迷する世界情勢を追い風に莫大な利益を上げ続ける一大成長産業です。その市場規模は10兆円とも言われています。
彼らの多くはいくつもの国に支店を持つ多国籍企業であり、武器の禁輸や傭兵の禁止を定めた国際条約を公然と無視しているにも関わらず、現在の各国の国内法では彼らの活動を規制することは不可能な状態にあります。
ドイツでセンセーションを巻き起こしたロルフ・ユッセラー『戦争サービス業――民間軍事会社が民主主義を蝕む』(日本経済評論社)の解説を見てみましょう。
これらの民間人は、実際には状況に応じてためらいなく武器を使用する兵士であり、その総数はイラクだけで約三万人(中略)。三万人といえば、アメリカ軍についで第二の規模の「軍隊」であり、アメリカ以外のどの同盟軍より多いのである。しかもこれはイラクに限ったことではない。例えばアフガニスタンではアメリカの会社ダインコープ社がカルザイ大統領の警備にあたり、他の会社が政府の建物と社会基盤を守っている。東南アジアと南アメリカでは、彼らはさまざまな舞台で反乱軍、麻薬カルテル、軍閥と戦っている。アフリカ諸国で油田地帯とダイヤモンド採掘現場を守るのも、彼ら「新しいタイプの傭兵」である。彼らの活動の場はここ数年間で地球上の一六○カ国に及び、需要の絶えることはない。
(ロルフ・ユッセラー『戦争サービス業』下村由一訳 日本経済評論社 2008年10月 pp.7-8)
小飼弾さんの書評でも紹介されている町山智浩さんの『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文藝春秋)では、2007年9月にイラクで起こったアメリカの民間軍事会社ブラックウォーター社の傭兵による民間人虐殺事件が紹介されています。
「彼らはイラクに憎しみをばらまいている」イラク政府の顧問としてバグダッドに滞在したマシュー・デグンはワシントンポスト紙にそう語る。デグンはブラックウォーターに護衛され、彼らの傍若無人ぶりを目撃した。彼らはデグンを乗せた戦闘ヘリでイラク政府本部の上空を無許可で飛びながらこう言った。「俺たちは法の外にいる。何をしてもイラク人には逮捕されない」
(町山智浩『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』文藝春秋 2008年10月 p.93)
依頼主であるアメリカ政府でさえ現地での彼らのふるまいを統制できず、事実上野放しの状態にあり、秩序の回復どころか現地住民の対米感情の悪化に拍車をかけています。
ちなみに町山さんの本ではこのブラックウォーター社の事件がその後どうなったのか書いてないので、先ほどのユッセラーの本から紹介しておきましょう。
さすがにアメリカ世論がこの問題を取り上げ、上院ではこの件で聴聞会が開かれはしたものの、国務省は結局関係者を無罪放免とした。(ユッセラー前掲書 p.viii)
このような馬鹿げたことがいつまでも許されていていいはずがありません。
世界中の紛争地域に兵士と兵器を送り続けるこの「新しい死の商人」どもへの国際的な法規制による包囲網が実現しない限り、今後もこのようなことが繰り返され続けるでしょう。