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2010/11/10 (水)

アピール度の低下

私はデジタルに移行してから、技術屋〜すなわちアニメ制作におけるアッセンブリやパーツの専門職として振る舞ってきた訳ですが、ここ数年、「商品本体」の「魅力の衰え」に強い危機感を抱いています。業界内のデジタル技術がこなれて全体の質が平均化された事も大きいのでしょうが、買う側にとっては単に「サプライズの少ない」商品になっている事に変わりありません。10年前のBlood劇場版の頃とは、状況が大きく変わっています。登場人物やストーリーに工夫を凝らすのは、実写作品でも同じ事。アニメで作る以上、アニメ作品ならではの「サプライズ」が問われていると思うのです。

危機感を抱くだけでは、物理面では何の変化も得られないので、何かしらの行動を起こす必要がある訳ですが、業界の状況を見ると「そんな事より、今が大事」とばかり、行動を起こす体力自体が無い状態です。現状維持の状態を崩さないように、当たり障りのない新要素だけを足す…のですから、作品上に大きな変化が表れないのもしょうがない事です。そのような映像内容の「小変更」に、ユーザの目はもう随分と馴れちゃったんじゃないのかな…と思います。

私は自費を投じて、色々な自己研究をおこなっていますが、それは映像内容に「大変更」をもたらす為のものです。しかし、現在の業界標準仕様の作品制作スタイルでは、活用できないものばかりです。思えば、攻殻ゲームのオープニングを作っていた頃の状況と良く似ています。作品作りの構造を大きく変えないと導入できない技術ばかりなので、簡単には実現できないのです。「新しい技術ができたので、明日から作り方をかえましょう」なんて、現場にとってみればとても受け入れられない、無理な話です。

作業体制は変えたくない(色々な理由で変えられない)けど、ユーザの関心を惹く新しいものは作りたい…。

まあ、難しいですよネ。作り方を変えるからこそ、今までとは違ったものが出来上がる…のですから。

「だったら、技術にテコいれしてみるか」と言った増強案も出てくるのですが、漠然と技術にお金をかけるだけでは、作品の魅力の向上には中々繋がりません。

作品全体の視点で「ユーザに対するアピール度」を考える際に、プラグインがどうとか色深度が12bitだとかは、ハッキリ言えば「カテゴリの違う」話題です。凡作のレンダリングを12bitにしたところで、どれだけお客さんにアピールできるのか?…まあ、考えるまでもない話です。「デジタルアニメ」の定番が(良くも悪くも)出来上がった現在、従来技術の完成度が増したり生産性が改善されたところで、作品のアピール度が大きく向上する訳ではないのです。

しかし、逆の視点でみると、新しい技術を知らないが故に、作品企画に「新しい息吹」を持ち込めないのも事実です。企画・発案の時点で従来の枠に収まっているのですから、他との差をアピールできなくて当然です。企画会議で「何か新しい作品を作ろう」と話し合ったところで、新しい技術に疎いのだから、実の伴わない虚しい空論に行き着くだけです。

つまり、技術者は「既存の概念からはみ出さない」中で技術を高めるだけだし、企画・計画をおこなう人間は「既存の要素からしか想像できない」という、絵に書いた様な「下降スパイラル」に落ちている状況です。「別の畑」の要素を導入したとしても、その活用法は単なる「トッピング」程度に終始するので、全体像は変えられないままです。

新しいものを作る為には、新企画を実現する新しい技術、新しい技術に触発されて生まれる新企画…という同時両方向のアプローチが必須なのです。

そんなこんなをここ数年考えていますが、もうそろそろ潮時、「動く時」なのかも知れません。15年前〜「自分のやりたい事はセル用紙の上ではできない」と決断した頃〜の様に。

幸い、Macをはじめとした映像制作システムは、15年前のソレとくらべて、非常に低価格化かつ高性能化しており、少数派の弱者にとって有利に作用します。

ただ、今足りないのは「人材」です。これも15年前と同じ。Mac/WinとAfter Effectsをメインに使うのは現在の撮影業務と同じですが、作業内容は天と地ほど大きく異なりますので、人材の転用が難しいのです。絵を作れる人間と絵を動かせる人間の両方が必要なのです。
*ちなみに、タイムシートの書式は激変するでしょうネ。紙の上でシートを書く行為自体が無くなるかも…。

年々、アニメ業界内部の衰退が危惧されていますが、私は新しいドクトリンに基づいたアニメ作品を作る事で、新天地を切り開きたいと思っています。…もしかしたら、同業者から「こんなのはアニメと認めない」と言われるかも知れませんが、あえて「アニメ」のジャンルにカテゴライズされる必要もないと考えています。私は、絵が動き、音が聞こえてくる「映像のお話」、すなわち「作品/商品」が作れれば良いのですから。

作成者 ezura