2008年8月16日(土)
すりー
しかし、その考えが甘いものである事を、三月はすぐに思い知らされる。
女性ロボットのその華奢な拳が霞む。
次の瞬間にはその拳は三月のみぞおちにめり込んでいた。
「げええええっ!」
自分で発しているとは思えない絶叫を三月はあげていた。着込んでいた衝撃吸収用の防弾ジャケットがそのダメージをかなりやわらげたようだが、それでも凄まじい激痛が腹と背中に走る。
しかし、苦しんではいられない。隙を見せたらその次の瞬間には殺されてしまう。
腹を押さえながら、三月は距離を取ろうとバックステップした。
だが、三月の次の行動を敵は当然読んでいた。
即座に踏みこむと同時に、蹴りを三月の腹に叩き入れた。
恐ろしい速度で三月は壁に激突する。
その衝撃で肋骨が数本折れ、左腕の骨も折れた上に、頭を強く叩き付けてしまった。衝撃吸収用のヘルメットは木っ端微塵に砕け散っている。ヘルメットを被っていなければ、今頃は彼の頭部がそうなっていただろう。
三月は呻き声をあげたが、すぐに動くことは出来そうにない。あれだけの衝撃を頭部に受けたのだから当然だ。
ロボットは三月がもう戦闘能力が失った事を確認すると、佳織が映るディスプレイの元に歩み寄った。
「いやぁぁぁぁぁ!起きてぇぇぇぇぇ、三月ぃぃぃぃぃっ!」
彼女の悲鳴が届いたのか、三月は微かにではあるが、動いた。
息をするだけでも激痛が走る。
三月は物質粒子化装置からある物を取り出した。それは…
「こっち見やがれっ!」
つー
「成功確率は?」
画面に映し出された数字は、
「42%…上出来だっ!迎撃不可能よかずっと勝機があるっ!」
轟音が鳴り響く。最後の隔壁が破壊された。
「時間はどれ位かかるんだ?」
「…約三分」
戦闘用のロボット相手に三分の時間を稼ぐ…至難の業だ…いくら作戦自体の成功確率が42%あっても、三月が時間を稼げなければ作戦自体が成り立たないのだ。
しかし、三月は、
「上等。三分だな」
不敵な笑みを浮かべた。
「お願いだから…無理しないでね」
悲痛な表情で呟く佳織。
佳織の『お願い』に対し、三月は、
「それこそ無理と言うもんだ」
にべもなくそう言った。
そしてディスプレイに映る佳織を見て、
「お前の為なら、無理だろうが無茶だろうが、俺は何だってやっちまうだろうからな」
僅かだが微笑んだ。
白煙の中から侵入者、戦闘用アンドロイドがその姿を見せた。
ゆっくりとその歩を進める侵入者。
三月は腕時計にちらりと視線を走らせる。
(…あと2分30秒…)
目の前のロボットが凄まじい速度で三月に接近してきた。
普通の戦い方をしていたのでは、絶対に戦闘用のアンドロイドに対し、2分間の時間を稼ぐことなど出来やしない。
だから、三月はある戦法を取ろうとした。相打ち狙いだ。相手の攻撃を貰う覚悟で、奴に攻撃を仕掛ける。
わん
「出来るのかよ、こんなことっ!」
三月の叫びに対し、
「…わからない…」
佳織は弱々しく首を横に振った。だが、
「でもやってみる価値はあるかも…」
「バカッ!失敗したらお前はどうなるかわからないぞ!」
「でもこのままじゃ私も三月も殺されるわよっ!」
画面に映し出された彼女の瞳から光るものが流れた。
「父さんも死んで、三月も死んだら…私どうすればいいのよっ!」
三月はその姿を呆然と見つめていた。
とにかく元気な彼女のこんな表情を見たのは初めてだから…
「…もう誰にも死んでほしくない…」
佳織は泣きながらそう呟いた。
「…佳織…」
人工知能、と聞いて、彼女が佳織のコピーのような気がしていたが…いや、実際にはコピーに等しい存在なのかもしれないが…
それでも構わないっ!
俺は自分の全存在を賭けて、彼女を、岩井佳織を守る。もう二度と佳織を離さないっ!
佳織の涙でその決意は揺るがぬものになった。

